プラスチックなど絶縁体の静電気対策として、イオナイザによる除電は有効です。イオナイザはイオンを多量に生成・供給することで、帯電を中和する効果があります。一方、イオナイザの形状やイオン供給方法にはバリエーションがあり、得意とする除電対象が異なります。ここでは、各種イオナイザの特徴や各用途に適したタイプについてご紹介します。
イオナイザの種類と特長
イオナイザを選定する際の主な検討項目は、1)機器の形状、2)イオン発生方式の違い、の2点です。
形状については、イオンをスポット的に利用したいか、広範囲に使用したいかなどの用途に応じて選定します。
一方、同じ形状であってもイオン発生方式が異なると、イオンの供給距離やイオンバランスなどが変わるため、除電対象に応じた発生方式を選びます。
※記載内容は一般論です。機種によっては、内容と機能が異なる場合があります。
各種イオナイザの特徴:形状の違い
ファン型
生成したイオンをファンによる送風で供給するタイプです。
ファンが1つの小型タイプの他、複数のファンを備えてイオン供給幅を広くしたタイプもあります。
卓上で除電をする用途に適しています。
バー型
フィルム/シートの生産工程など、広幅の移動体を除電するのに適した形状です。そのほか、室内の広い範囲を除電するルームイオナイザとしてもよく利用されています。
エアーによる送風タイプと無風タイプがあります。
ガン型/ノズル型
エアーによりイオンを供給するタイプで、比較的狭い範囲の除電に適します。
ガンタイプは、組立・検品作業など、卓上作業の際に除電したい対象・向きに対して効果的にイオンを供給することができます。
また、トリガー操作でイオン供給のON/OFFができるため、エアー消費量や消耗品などのメンテナンスコストを削減できます。
ノズルタイプはより小型なタイプが多く、狭い範囲に設置でき、装置内の実装が容易です。
各種イオナイザの特徴:イオン発生方式の違い
1)電圧印加式
DC方式
直流電流を放電針に印加してコロナ放電を行うタイプです。
常時同電圧を印加しているため、イオン発生量が最も多く、電圧印加式の中では比較的長距離までイオンを供給することができます。
一方で、正負のイオン供給電極が異なるため、針電極の摩耗によりイオンバランスが崩れやすい欠点があります(針電極の摩耗スピードは、正負により異なります)。
各放電針がそれぞれ正/負のイオン生成に特化しているため、放電針に対象物を近づけすぎると、正/負偏ったイオンに暴露されることになります。特にバータイプは長手方向にイオンの偏り(ホットスポット)が生じやすいため注意が必要です。機種ごとに推奨されている設置距離で使用できるように取り付けます。
パルスDC方式
正/負一対の電極があり、正/負のイオンが交互に生成されるように制御されています。これにより正/負のイオンが衝突して中和される問題を低減させています。
正/負のイオンが間隔を開けて放出されるため、高速な移動体への除電は不向きです。
また、電位振動があるために、半導体部品など耐電圧の弱い対象の除電にも適していません。
AC方式
交流電流( 50/60Hz )を放電針に印加してイオンを生成します。
正/負のイオン生成を同一の放電針で行うため、放電針の摩耗が偏りにくい特徴があります。
イオン生成は、放電針の印加電圧がコロナ放電を開始する電圧を超えた時のみ行われます。このため、正負の切替サイクルの間にイオンが生成されない間隔が発生します。
高周波AC方式
AC方式よりも高周波数のタイプです。正/負のイオンがより速いタイミングで切り替わるため、イオンの偏りがより少なく、半導体など100V以下の除電が求められる用途に適します。
送風チューブやパイプによるイオン供給に対応した機器が各種上市されており、装置内にイオン供給する場合は省スペースで設置可能です。
一方、除電距離は短く、対象物に近づけてイオンを供給する必要があります。
針ピッチが広い機種は、条件によってはスジ状の除電ムラが生じる可能性があり、注意が必要です。
パルスAC方式
正弦波である交流電流を変換してパルス状の印加方式としたタイプです。ACが正負のイオン切替の間にタイムラグを生じるのに対し、パルスACは正負の切替間隔が短く、その分イオン発生量が多くなります。すべての電極から正/負のイオンが交互に放出されるため、パルスDCタイプと異なり正/負のイオンの偏りが抑制されています。
周波数は多段階で変更できるものの、機種によっては低めの周波数※となるため、移動体への除電ではムラの発生に注意が必要です。
※新しい機種では100Hz前後の周波数に対応したものもあります。
2)光電離方式
軟X線照射方式
照射範囲にある空中の分子・原子に作用して電子やイオンを生成します。電圧印加式のイオナイザは放電針でイオンを局所的に生成しますが、軟X線方式は、照射範囲内の全体でイオンを生成します(下図参照)。一般的に、生成される電子・イオンの量は電圧印加式よりも少なくなりますが、照射範囲内であれば比較的離れた場所でも電子・イオンが生成・供給される特徴があります。
イオンバランスにも優れています。
放電針が無く送風も不要なため、異物の発生や塵の吹き付けがありません。
高電圧電極が露出していないため、防爆環境※に適応させやすい特徴があります。
※機種選定はメーカーにご確認ください。
UV照射方式
紫外光を照射して分子・原子から電子やイオンを生成します。
軟X線照射方式と同じく、照射範囲内であれば離れた場所でもイオンが生成されます。
イオンバランスに優れており、発塵リスクがありません。
窒素・アルゴン雰囲気や真空度が高い環境での利用に適しています
一方、大気中での利用はオゾンを多量に発生させるため適しません。
放射線照射方式(ポロニウム)
放射線(α線)を照射して空中の分子をイオン化します。遮蔽が必要なため、放射線規制の厳格な国内ではあまり使用されていません。
3)自己放電式
除電紐や除電ブラシなど、電源を必要としない除電アイテムです。必ず接地して使用します。
帯電した物体が接近すると、物体と除電紐/ブラシの間に電界が発生し、コロナ放電が誘発されてイオンが発生、物体を除電します。
安価に導入でき、設置スペースも小さいメリットがあります。
条件により真空・減圧環境でも利用が可能です。
一方、コロナ放電は、除電対象の帯電電圧が高くないと発生しないため、弱い帯電では除電効果が得られません。このため、0Vへの除電はできず、2~3kvの電荷が残留します。
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